Notebook

9軸ふゆとら の りんかく
※小説でもssでもない、「文」、テクストです。

ふゆとらは煙をつかむようでした。



 アンタはかつて愛されてたしこれからもずっと愛されてる、って、アンタにいくら言っても無駄なんだろうな。アンタのそういう無神経で無自覚なところが心底ムカつく。
 雨がざんざんふって空気がつめたくて厚手のタオルケットにくるまってもあたたまらなくてぜんぜん眠れない夜に、となりでのんきに寝息を立ててるアンタの顔を見ると腹が立った。これはオレが勝手に腹立てているだけでアンタはべつに悪くはないのだけど、アンタが寒くないように一枚しかない掛け布団の3分の2をアンタにかけてやってる、オレの気持ちにちっとも気づかない。
 気遣ってるとか優しくしているとかこれは愛情だとか、そんな重たいものを押しつけるつもりはなかった。でもアンタを見てるとオレはじぶんの中にあるさみしさにうっかり気づいてしまって、やりきれなくてとてもかなしい。そんなこと少しも知らないんだろうアンタは。オレがアンタをどんだけたいせつに思っているか、ちゃんと愛しているか、知らないんだろう。どこまでもあまのじゃくで意地悪なアンタは。
 愛してるだなんてどの口が言うんだっておもうから言わない、でもとても、アンタはオレのたいせつな人だと、アンタにほんの少しでも気づいてもらえればなにかが報われる気がする。
 アンタとまた出会えてアンタの側にいられて幸いだった。オレが死んだら泣いてくれるのはアンタだけだと思うしアンタが死んで泣くのもオレだけだから、きっと。
 背中に額を押しつけると心臓の音がした。とくとくと酸素を体に供給する気配はそのまま、アンタの生きてる証で、アンタを傷つけたら皮ふの破れめから血がいっぱい出るんだよなあなんてことを思う。
 夜は深くて寒くて部屋じゅうに雨音が響いていて、オレはずっと眠れない状態でアンタの背中ごしにぬるい体温を感じてる。
 ほんとうはオレだってアンタに愛されたいんだと、朝が来たってオレは絶対にいえない。

畳む


#ふゆとら