ドラマイ



 ケンチンに触りたい、と思った。それで、すなおにそう言った。「いつもベタベタ触ってんじゃねーか」とケンチンは言った。ちょっとだけ笑って。そうだけど、とオレは言った。そう、それはそう、だけど。でもちがう。そうじゃなくって。
 容赦なく注ぐ日ざしは背中に熱くって、なにもかもを焼き尽くそうとしてるみたいだった。真夏の昼下がり。暑い暑いと言うオレのために、ケンチンはコンビニに寄ってアイスを買ってくれた。わずかな日陰を求めてコンビニの裏手にまわり、車止めに尻を乗せてアイスの封を切った。冷気が鼻先を掠めた。みず色をしたいかにもつめたそうな氷菓に齧りつく。「冷て」、とオレが笑うと、ケンチンもアイスを齧って「冷てー」と言った。中学に上がって、はじめての夏だった。日陰といっても蒸された空気はしつっこく肌にまとわりついた。隣に座ったケンチンはしゃりしゃりと音を立ててアイスを齧っている。その横顔を見ていると、ふいに体のおくが、むずっ、とした。むずっ?――そんな感触ははじめてのもので、でも、すぐに欲求が追いついて、噴き出した違和感を覆ってしまった。ケンチンに触りたい。なぜか、そのとき、そう思ったのだった。
 車止めに置かれたケンチンの左手に、指を伸ばした。触れる。しっとりと汗の滲んだ皮ふがあった。皮ふはうすくて、骨のかたちが伝わってくる。はじめて、ケンチンそのものに触れた気がした。しばらく手の甲をなぞっていると、頭の上のほうから「くすぐってぇよ」というケンチンの声が聞こえて目をあげる。逆光の中にケンチンの顔があって、表情は見えなかった。構わず、指の腹で湿っぽい皮ふを撫でた。ケンチンはされるがまま、もうなにも言わなかった。
 蒸れた空気のせいで呼吸が苦しかった。でもほんとうにそれだけのせいなのか、ガキんちょのオレにはまだよくわからなかった。


(2023.08.16)

畳む

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