ドラマイ



 抱きしめると、すっかりと腕の中におさまってしまうちいさな体だった。背中を包むように抱いて、万次郎の底に潜む熱を感じれば、ただでさえ蒸した部屋が温度を増す。
 堅の肌にも汗は滲み、熱気がしつこくまとわりついた。万次郎の背中も湿り気を帯びてひどく熱い。こんなに汗だくになってくっついて、でも、なにもしてない。堅はその不思議を思った。大人が、店にやって来る連中が嬢とするようなことは、オレらは一切、やってない。帰りたくない、とごねるマイキーを部屋に泊まらせているだけ。ベッドに転がったマイキーの背中を、抱いているだけ。それだけのこと。なのに、期待をしてしまう自分にうんざりした。
 けんちん、と濡れた声が万次郎のくちびるから転がった。部屋にしみてゆく甘い声に、堅は耐えきれず喉を鳴らした。万次郎の顔は見えない。照明を控えたうす暗く湿度の高い部屋で、ぴたりと体を合わせて、万次郎の髪のきんいろさえも曖昧に滲んでいた。
「……なんも、しねぇから」
 堅はそう言った。なにも、しない。ただ抱きしめていたいだけだから、と。ふっと息を洩らして、万次郎が笑った。
「べつに、なんかしてもいいよ」
 明瞭な声に、堅は一瞬、怯んだ。それから、われに返ったように「あほう」と言って、万次郎のくせっ毛に手を差し入れた。
 あつい、と思った。あつくて、ひどくあつくて、このまま溶けちまいそうだ。<br> 万次郎を抱く腕に力をこめる。うなじに、唇を押しつける。汗をかいて湿った皮ふがあった。思いきり息を吸い、かれの匂いを肺に送りこんだ。

(2023.08.09)

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