#文字書きワードパレット とにかく手を、ゆびを、動かさないとだめだなと思ったので、cp理解と書く練習のためにお題をお借りしてなにかしら書いていく企画をします。ひとりで。1から順番にやってゆきます。できれば毎日(ま、毎日‥?)短文なり短歌なりSSなりテクストなりなんでもいいから、小説に満たないものものを。書いているうちになにかわかるかもしれないと期待します。(お題(画像を含めて)は 文字書きワードパレット(X@Wisteria_Saki) 様よりお借りしました)#1.プリンシピオ(走る・明け方・神様)/ふゆとら(9軸)続きを読む それは神様のいたずらだと誰かに言われたなら、そうかと信じてしまいそうな再会だった。 十年ぶりに千冬の顔を見たとき、殺されるのだろうなと咄嗟に思った。そして同時に、千冬の記憶の底に十年ものあいだ、オレが沈んでいたことがとてもとてもかなしかった。「お久しぶりです、一虎くん」 いかにも高級そうな黒塗りの外車の運転席で、千冬はうすくほほ笑んでオレの名前を口にした。ムショの中ではナンバリングされていたから、名前で呼ばれるのはひどくひさしぶりのことだった。 千冬は、オレには「羽宮一虎」という名前があったことを思いださせてくれた。 よく晴れた空が眩しい日のことだった。冬のはじまる気配を伴わせた風が鼻先を掠めた。懐かしい匂いが漂って、オレはあのとき泣くべきだったのかもしれなかった。 人を殴ったあとの手は痛いし、返り血に汚れて不快だ。昔はそんなことちっとも思わずにいられたのに、不思議だった。 足もとに転がっている男たちを跨いで、路地を歩いていく。怒声が消えた道は暗く、血の臭いで満ちていた。左右を古びたビルに囲まれたゴミだらけの路地裏、こんな場所で屯ろしている末端のチンピラも東卍の一部なのかと思うと吐き気がした。 夜じゅう東京の街を駆け回り、東京卍會を追いつめるための有益な情報を探す。それがオレに与えられた仕事だった。千冬からそう依頼された。千冬はオレを雇っているつもりなのかもしれないし、利用しているだけかもしれない。ビジネス・パートナー? なんでもいい、かつての東卍を取り戻せるなら。千冬がそれを願うのならば。 千冬の望むことはすべて叶えたかった。なぜかそう、つよく思ったのだった。目的が一致しただけでオレらのあいだには特別な感情など存在しないはずだった。なのにどうして。 電信柱から枝のように伸びた電線が幾筋も、空を横切っていた。視線の先でビルの群れが赤く燃えている。夜明けだ。火をつけたばかりのたばこを足もとに落として踏み潰す。焔はまたたくまに消えた。 次第に明るくなってゆく街を、マンションに向かって歩く足が、気づいたら早足になり、いつのまにか走りだしていた。朝が来てしまう前に帰りたかった。千冬の帰りはいつも明け方だから、帰ってきたときには顔を見て、「おかえり」を言いたかった。千冬はそんなものを少しも望んじゃいないだろうけれど。どうせ一緒にいるのなら、オレの自己満足にもちょっとはつきあってもらってもいいのではないかと思う。 口の端からこぼれた息が頬に当たった。吐き出される自らの息のあたたかさに、オレは思わず安心してしまう。24.0818畳む 2024.8.19(Mon) 09:34:18 ShortShort,ふゆとら
とにかく手を、ゆびを、動かさないとだめだなと思ったので、cp理解と書く練習のためにお題をお借りしてなにかしら書いていく企画をします。ひとりで。1から順番にやってゆきます。できれば毎日(ま、毎日‥?)短文なり短歌なりSSなりテクストなりなんでもいいから、小説に満たないものものを。書いているうちになにかわかるかもしれないと期待します。
(お題(画像を含めて)は 文字書きワードパレット(X@Wisteria_Saki) 様よりお借りしました)
#1.プリンシピオ(走る・明け方・神様)/ふゆとら(9軸)
それは神様のいたずらだと誰かに言われたなら、そうかと信じてしまいそうな再会だった。
十年ぶりに千冬の顔を見たとき、殺されるのだろうなと咄嗟に思った。そして同時に、千冬の記憶の底に十年ものあいだ、オレが沈んでいたことがとてもとてもかなしかった。
「お久しぶりです、一虎くん」
いかにも高級そうな黒塗りの外車の運転席で、千冬はうすくほほ笑んでオレの名前を口にした。ムショの中ではナンバリングされていたから、名前で呼ばれるのはひどくひさしぶりのことだった。
千冬は、オレには「羽宮一虎」という名前があったことを思いださせてくれた。
よく晴れた空が眩しい日のことだった。冬のはじまる気配を伴わせた風が鼻先を掠めた。懐かしい匂いが漂って、オレはあのとき泣くべきだったのかもしれなかった。
人を殴ったあとの手は痛いし、返り血に汚れて不快だ。昔はそんなことちっとも思わずにいられたのに、不思議だった。
足もとに転がっている男たちを跨いで、路地を歩いていく。怒声が消えた道は暗く、血の臭いで満ちていた。左右を古びたビルに囲まれたゴミだらけの路地裏、こんな場所で屯ろしている末端のチンピラも東卍の一部なのかと思うと吐き気がした。
夜じゅう東京の街を駆け回り、東京卍會を追いつめるための有益な情報を探す。それがオレに与えられた仕事だった。千冬からそう依頼された。千冬はオレを雇っているつもりなのかもしれないし、利用しているだけかもしれない。ビジネス・パートナー? なんでもいい、かつての東卍を取り戻せるなら。千冬がそれを願うのならば。
千冬の望むことはすべて叶えたかった。なぜかそう、つよく思ったのだった。目的が一致しただけでオレらのあいだには特別な感情など存在しないはずだった。なのにどうして。
電信柱から枝のように伸びた電線が幾筋も、空を横切っていた。視線の先でビルの群れが赤く燃えている。夜明けだ。火をつけたばかりのたばこを足もとに落として踏み潰す。焔はまたたくまに消えた。
次第に明るくなってゆく街を、マンションに向かって歩く足が、気づいたら早足になり、いつのまにか走りだしていた。朝が来てしまう前に帰りたかった。千冬の帰りはいつも明け方だから、帰ってきたときには顔を見て、「おかえり」を言いたかった。千冬はそんなものを少しも望んじゃいないだろうけれど。どうせ一緒にいるのなら、オレの自己満足にもちょっとはつきあってもらってもいいのではないかと思う。
口の端からこぼれた息が頬に当たった。吐き出される自らの息のあたたかさに、オレは思わず安心してしまう。
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